今回は通信大手3社(NTT・KDDI・ソフトバンク)の違いを比較しよう。大半の就活生はケータイ会社という側面からしかこの3社を知らないのではなかろうか?実はこの3社は色んな事業を行っており、ビジネス面で毛色が全然違うということが見えてくる。
今回のトピック
- 各社のセグメント構成は全然違う
- ケータイ事業での比較
- 各社の目指す方向性
- グループ規模の比較
- この3社を受ける就活生へのメッセージ
各社のセグメント構成は全然違う
まずは各社のセグメントを全部書き出す。細かい説明は後でするから、とりあえず各自眺めて欲しい。
【NTT】
- 地域通信事業:家庭の電話とインターネット
- 長距離・国際通信事業:世界でクラウドやデータセンターを提供
- 移動通信事業:ドコモ
- データ通信事業:SIerとしてシステムの開発・提供
- その他の事業:不動産・金融・建築・電力など色々
【KDDI】
- パーソナルセグメント:個人向けケータイ、家のネット、電力小売
- バリューセグメント:個人向けにコンテンツや決済システムの提供
- ビジネスセグメント:企業向け通信・ソリューション・クラウドの提供
- グローバルセグメント:海外でケータイ事業
- その他:通信設備の建設や保守、研究など
【ソフトバンク】
- 国内通信事業:個人・法人ともにケータイとネットの提供
- スプリント事業:アメリカのケータイ会社
- ヤフー事業:ネット広告やイーコマース、会員サービス事業
- 流通事業:海外で携帯端末の流通、国内でPC向けソフトや機器の販売
ザックリ解説すると、3社とも個人・法人の両方にケータイやネットのサービスを行っているのは共通。しかし、NTTのみ海外でケータイ会社事業に関わっていない。NTTはクラウドサービス、システムインテグレーションで超一流である。KDDIはコンシューマーとの密な関わりを重視し、au経済圏を作ろうとしている(詳細は後述)。ソフトバンクは色んな企業を取り込んで大きくなってきた。
では、1社ずつ細かく見ていこう。
NTT
2016年度のアニュアルレポートから営業収益、営業利益を見てみよう。
営業収益ではバランスがいいものの、営業利益だとかなり移動通信事業(ドコモ)に偏っている。KDDIはもっと偏っているのだが、やっぱケータイ事業ってぼろ儲けしてるのか…安倍首相の鶴の一声で”端末実質ゼロ円”が規制されたのだが、結局大半の消費者にとって携帯料金が安くならないのでは?という意見があった。一方、ドコモは新料金プランを出してきたようだ。込み入った話だが、ケータイの買い替えを考えている人、携帯キャリアに興味のある就活生はしっかりフォローしておこう。
話が逸れたが、前述の通り海外でクラウドが高い評価を受けており、SIerとしても超一流である。なお、各セグメントの事業を担当している企業は以下の通り。
- 地域通信事業:NTT東日本、NTT西日本
- 長距離・国際通信事業:NTTコミュニケーションズ、ディメンション・データ
- 移動通信事業:ドコモ
- データ通信事業:NTTデータ
- その他の事業:色々なグループ会社
KDDI
こちらはケータイ・ネット事業が売上、営業利益の大半を占める。
バリューセグメントでは、動画の配信、J:COMへの出資、イーコマース、金融事業の拡大などを行っている。後述するが、様々なサービスを提供する“au経済圏”を目指しており、ここは今後力を入れていくセグメントだろう。
ソフトバンク
ソフトバンクは色んな企業を取り込んで大きくなってきたし、「情報革命で人々の幸せに貢献」というビジョンのもと、今後もどんどん拡大していくだろう。よって、何をやっているのかわかりにくいのだが、ソフトバンク自身が発表しているセグメント分けと、売上高・営業利益の構成は以下の通り。
ニュースだけ見ていると、「色々やっていてよくわからん」という印象だが、儲けの軸はケータイ・ネット事業とヤフーしかないといえよう。ヤフーはショッピングから天気、株価情報などを提供するポータルサイトなのはご存知の通り。スプリントはアメリカのドコモやauのような携帯会社で、長年赤字に苦しんできたが、最近ようやく黒字化することに成功し、ここから巻き返しを狙うという段階だ。
グループの親玉は“ソフトバンクグループ株式会社”という会社であり、各事業を担当する主要な会社は以下の通り。
- 国内通信事業:ソフトバンク、Wireless City Planning
- スプリント事業:Sprint Corporation
- ヤフー事業:ヤフー、アスクル
- 流通事業:ブライトスター
- その他:ソフトバンクホークス
ケータイ事業での比較
やっぱこの3社だと身近なケータイ事業の比較は気になる所だろう。こちらのサイトによくまとまっていたので引用させてもらう。
ケータイのシェアでいうと、まだドコモが強く、ソフトバンクがauに肉薄している。
「ドコモじり貧、ソフトバンク大躍進」というイメージがあったが、最近はむしろ「ドコモ復活、ソフトバンク減速」の傾向にあるようだ。
各社の目指す方向性
各社の目指す方向性を一言で言うと以下の通り。
- NTT:選ばれ続けるバリューパートナー
- KDDI:通信企業からライフデザイン企業への変革
- ソフトバンク:情報革命で人々の幸せに貢献し、世界の人々から最も必要とされる企業グループ
では、一社ずつ見ていこう。
NTT
筆者より若い就活生諸君はスマホネイティブかもしれないが、ガラケー時代は今のように充実したアプリなんかなくて、キャリアの提供するサービスをよく使っていた。今はLINEで連絡を取るのが主流だが、一応キャリアのメールがあるでしょう?昔はLINEがなくてメールがメインだったのだよ。
で、何が言いたいのかっていうと、「ケータイでも家のネットでも、通信会社は回線を提供するだけ、メインのサービスは他の会社が提供しますって状況になったらダメだ」というのがNTTの方針なのだ。これをB2B2Xモデルへの転換として掲げている。
例えば、NTTが家庭にネット回線を提供している訳だが、利用者はネットさえ手に入れば後は自由に動画なりネットサーフィンをしますという状況では、NTTは単なる情報の通り道の提供者に成り下がってしまう。そういう立ち位置だと儲からないのがビジネスの常。ということで、「うちと組んでサービスを提供しませんか」と色んな企業を誘い、“パートナー”として一緒に高い付加価値を提供していこうというビジネスモデルを目指している。B2B、B2Cに限定するのではなく、真ん中に入って色んな組織を客とつなげる立ち位置がB2B2Xである。
日立もこんな感じのビジネスモデルへの転換を発表したばかりだが、こういった方向性は色んな業界で主流となっている。
あと、もちろん海外展開にも力を入れている。2018年には海外事業の営業利益を2倍以上にするという目標を掲げている。
また、NTTは元国営企業であり、組織力や技術力では圧倒的である。財務大臣が株式の約30%を保有しており、NTTは“東京五輪”や“地方創生”で活躍することを掲げていることから、政府の意向と期待が反映されているのであろう。
KDDI
KDDIはより“一般のお客様”に近い視点で、あらゆるサービスを提供できる会社になろうとしている。KDDI自身が中期経営計画で発表している図を見ればすぐにわかる。
NTTと同じで、単なる回線を提供するだけの会社になりたくないのだ。ただ、NTTの方は圧倒的インフラ基盤や技術力があるが、そこで劣るKDDIはお客様に近いサービスの組み合わせで勝負しようという戦略だろうかというのが筆者の感想だ。
ビッグデータという言葉はご存じだろう。膨大なデータを集めて解析することで、次のビジネスにつなげる訳だ。ケータイ電話の顧客を抱えているということは、個人のライフスタイルを丸裸に出来るデータを持っていると言える。したがって、それを上手く使えば生活に関係するあらゆるサービスに関わるチャンスが出てくる訳で、客を“au漬け”にして収益をあげようというのが狙いだ。以下の図がそれを物語っている。
海外展開では、ミャンマーやモンゴルといった途上国でケータイ事業に参画しているのが印象的だ。途上国で事業を行うノウハウが蓄積されれば、今後も安定した成長が見込めるだろう。
ソフトバンク
ソフトバンクは「情報革命で人々を幸せにする」という理念の企業グループだ。莫大な金でボーダフォンを買収して携帯事業に参入したし、先日これまた莫大な金でイギリスのARMという会社を買収した(IoTについての記事で少し解説した)。今後の情報革命を正確に読めない以上、ソフトバンクがどう変わっていくのかも正直わからない。世界中のITベンチャーに投資しており、“革新的な起業家集団”と謳っているが、またアリババのような大化けする会社が出てくるかもしれない。
とりあえず会社のホームページの経営方針には大したことは書いてない。アニュアルレポートでは、ケータイ事業でARPU(Average Revenue Per Unit:一回線当たりの収入)を上げると言っているが、これはKDDIの方針と同じ路線。また、上述の通りスプリント事業はようやく黒字化出来てきたばかりで、まだしばらく頑張らないといけない状況だ。
という訳で、ソフトバンクについては大した解説が出来なくて恐縮だが、後でソフトバンクを受けようとしている就活生へのメッセージを述べる。
グループ規模の比較
2015年度の売上・営業利益・純利益の規模は以下の通り。
また、資産と負債・純資産の規模は以下の通り。
ソフトバンクは色んな企業を取り込んで大きくなってきたと言ったが、その都度借金をしてきたため、負債が膨れ上がっている。一方、NTTは同規模の資産と売上を誇るが、こちらは圧倒的に健全な財務状況である。また、KDDIは規模は小さめだが、利益ではそれほど劣っておらず、健闘しているといえよう。財務状況も健全だ。
この辺の話がわからない人は、財務諸表講座を書いてあるので、そこで勉強して欲しい。
この3社を受ける就活生へのメッセージ
筆者が記事を書いていて思ったのは以下の点。
- 時代の最先端の業界だから、死ぬ気で勉強してね
- 孫社長マンセーだけでソフトバンクを受けるな
時代の最先端の業界だから、死ぬ気で勉強してね
今後はパソコンよりモバイル端末が主流になる(もうそうなりつつあるか)。革新的な技術やサービスが生まれるだろうが、その中心はスマホだろう。そんな中で、ソフトバンクはもとよりNTTもKDDIも単なる通信回線提供者にとどまらず、自分たちで付加価値を提供できる主体になろうとしている。IoT時代が来ればあらゆるデバイスがスマホとつながるだろうし、ケータイ業界は数ある業界の中でもトップレベルの激流に巻き込まれると考えてよい。
3社の目指す方向性を説明したが、NTT、KDDIのやろうとしていることがイマイチ理解できない人は勉強不足だ。IoTに関するニュースを見ていればどの業界でも似たようなことを言っているのがわかるはず。また、Amazonも顧客の囲い込みに力を入れているのだが(Amazonプライムとか、アメリカではSiriみたいなスピーカーを売ってたりする)、KDDIの掲げるau経済圏という思想も時代に即したものだ。
という訳で、時代の最先端の業界なんだから、ここを目指す人は激しい変化についていくだけの柔軟な頭、成長意欲を持ち続けないといけないはずだ。今からニュースへの感度を高く維持し、好奇心を持って色んなサービスを試してみるといい。
孫社長マンセーだけでソフトバンクを受けるな
孫社長を尊敬するからソフトバンクを受けるって人も少なからずいるだろう。確かにあの人はモンスターである。しかし、あなたはあなたの人生を生きるのだ。あなたが会社の主軸になる10年後、20年後に孫さんはいないかもしれない。その時、あなた自身は何をモチベーションに働くのだ?
孫さんの言っていることの何に、どうして共感できるのかを明確にせよ。その理由は自分の経験や価値観から引っ張ってこなければならない。一般論としての孫さんのスゴイ所を面接で解説したって落とされるだけだ。孫さんのビジョンに共感を抱くなら、“自分はそこにどう貢献するのか”を描け。当然それは一朝一夕にはできない。上述の通り、世界で最も変化の激しい業界だからだ。しかし、就活生が正解できるとは誰も期待していないので、必死に勉強し、自分の頭で可能な限り論理的に考えればよい。それが出来れば内定は得られるし、孫さんがいなくなっても自分が働くモチベーションを失うことはないだろう。
最後に
今回の記事のポイントをまとめておこう。
- NTTはクラウド、システムインテグレーションで超一流
- KDDIはau経済圏を作り、客に様々なサービスを提供しようとしている
- ソフトバンクは今のところ国内通信事業とヤフーのみが収益源
- 3社とも通信回線を提供するだけにとどまらず、主体的に価値を提供できるようになりたい
- NTTは元国営企業だけあって資産と技術の蓄積がすごいが、政府の意向を反映した事業も行う
- ソフトバンクは借金が多い。NTTとKDDIの財務は健全
- 時代の最先端の業界なので、それについていくだけの勉強が必要
- 孫社長を盲信してソフトバンクを受けるな。自分の考えを持て